「レシピ本を見ながら作っているのに、なぜか上手くいかない…」 「『ガス抜き』とか『ベンチタイム』とか、面倒だから飛ばしちゃダメなの?」
パン作りを始めたばかりの頃、そう思ったことはありませんか? 結論から言うと、パン作りの工程に「無駄な作業」は一つもありません。
パン作りは、まるで「駅伝」のようなものです。 計量から焼成まで、すべての工程がバトンを繋いでいます。どこか一箇所でも手を抜くと、その影響が最後のゴール(焼き上がり)に出てしまうのです。
今回は、レシピにはなかなか書かれていない「全8工程の科学的な意味」を一気に解説します。 「なぜその作業をするのか?」という理論を知るだけで、あなたのパン作りは劇的にレベルアップしますよ!
全体の流れ(8ステップのロードマップ)

パン作りは、基本的にどのようなパンであっても以下の8つのステップで進んでいきます。
- 計量
- こね(ミキシング)
- 一次発酵
- 分割・丸め
- ベンチタイム
- 成形
- 二次発酵(ホイロ)
- 焼成
それでは、一つ一つの意味を紐解いていきましょう。
Step 1:計量(すべての始まり)

【意味】化学反応の設計図を狂わせない
パン作りは科学です。材料の比率は、美味しいパンができるための完璧な「化学方程式」になっています。 「塩がちょっと多いけど、ま、いっか」 その油断が命取りです。塩が多ければイーストは死んでしまい、少なければ味がぼやけて発酵が暴走します。
- ポイント: 必ず0.1g単位のスケールを使い、温度計で水温を測る。ここがズレると、この後の全てがズレます。
(関連記事:https://yuji2110n.com/bread-making-tools/)
Step 2:こね(ミキシング)

【意味】パンの骨格(グルテン)を作る
ただ材料を混ぜ合わせるだけでは、パンにはなりません。「こねる」という物理的な力を加えることで、小麦粉の中のタンパク質が結びつき、「グルテン」という網目状の膜が作られます。
これが、発酵で発生するガスを受け止める「風船のゴム」のような役割(骨格)になります。こね不足だと、ガスが漏れて膨らまないペタンコのパンになってしまいます。
作りたいパンによってこのグルテンの量を自分で管理していきます。
(関連記事:https://yuji2110n.com/wheat-flour-types/)
Step 3:一次発酵

【意味】生地を膨らませ、味と香りを育てる(熟成)
こね上がった生地を温かい場所に置いておくと、イースト(酵母菌)が生地の中の糖分を食べて活動を始めます。
- 炭酸ガスを出す → グルテンの膜が風船のように膨らむ(ボリュームが出る)
- アルコールや有機酸を出す → パン特有の芳醇な香りと旨味が生まれる(熟成)
(また別記事で発酵と熟成のメカニズムについて詳しく書いていきます。)
ただ膨らめば良いわけではありません。作るパンのタイプに合わせて「適切な温度環境」を用意してあげることが重要です。
【参考】パンの種類による適切な温度帯の例
発酵温度は、「何を作るか」によってプロは使い分けています。
- バターや砂糖たっぷり!リッチな生地(菓子パン・食パンなど):【28℃〜30℃】
- 理由: イーストが活動しやすい、少し温かい温度帯です。ただし、生地の温度が32℃を超えるとバターが溶け出して生地がベタベタになってしまうので、上げすぎには注意が必要です。
- 粉・水・塩・イーストのみ!ハードな生地(バゲットなど):【22℃〜25℃(少し涼しい室温)】
- 理由: あえて少し低い温度で、ゆっくりと時間をかけて発酵させます。そうすることで、酵素がじっくり働いて小麦の甘みを引き出し、複雑で深い味わいのパンになります。(プロは冷蔵庫で一晩寝かせることもあります)
Step 4:ガス抜き(パンチ)・分割・丸め

【意味】生地をリフレッシュさせ、扱いやすくする
「せっかく膨らんだのに、なぜ潰すの!?」と思うかもしれませんが、これには非常に重要な理由が3つあります。
- イーストの活性化: 古い炭酸ガスを追い出し、新鮮な空気(酸素)を送り込むことで、イーストが元気を取り戻します。
- 生地の強化: 緩んだグルテンの膜を刺激して、再び引き締めます(コシが出る)。
- きめ細かくする: 大きな気泡を潰して分散させ、パンの断面(クラム)をきめ細かく均一にします。
その後、作りたいパンの大きさに合わせて、生地を切り分け、丸めていきます(分割・丸め)。
Step 5:ベンチタイム

【意味】傷ついた生地を休ませて「緩和」させる
分割やガス抜きで、生地は大きなストレスを受けて、グルテンが緊張して縮こまっています。このままでは、硬くて成形(次の工程)ができません。
10分〜20分ほど、乾燥しないように休ませることで、緊張していたグルテンが緩みます(緩和といいます)。すると、生地が再びしなやかになり、スムーズに形を作れるようになります。人間で言うところの「運動の合間の休憩」です。
Step 6:成形

【意味】最終的な形を整え、ガスの逃げ道をコントロールする
丸めたり、棒状にしたり、あんこを包んだり。パンの最終的な形を決める楽しい工程です。
単に形を作るだけでなく、生地の表面を適度に張らせることで、焼いた時にきれいに膨らむようにガスの方向をコントロールする役割もあります。
Step 7:二次発酵(ホイロ)

【意味】焼くための最終準備。ふんわりさせる。
成形で再びガスが抜けて引き締まった生地を、もう一度温かい場所で発酵させて膨らませます。 一次発酵が「味と骨格作り」なら、二次発酵は「最終的なボリュームとふわふわ感を出すため」の工程です。
この工程は、作るパンのゴールに合わせて温度をコントロールすることが成功の鍵です。
【参考】目指す食感による適切な温度帯の例
一次発酵よりも少し高い温度に設定するのが基本ですが、上げすぎには注意が必要です。
- ふわふわに仕上げたい(食パン・菓子パンなど):【35℃〜38℃】
- 理由: イーストが最も活発に動く温度帯まで上げて、ラストスパートをかけます。短時間でグッと膨らませることで、ふんわりと柔らかい食感になります。乾燥は大敵なので、湿度もしっかり与えましょう。
- バリッと仕上げたい(フランスパン・ハード系):【28℃〜32℃】
- 理由: 温度を上げすぎると生地がダレてしまい、焼いた時に「クープ(切り込み)」がきれいに開きません。少し低めの温度で、生地の適度なコシ(反発力)を残したまま発酵させます。
※ちなみに、クロワッサンなどのバターを折り込む生地は、バターが溶け出さないように28℃以下で行うのが鉄則です。
Step 8:焼成

【意味】熱で化学反応を固定し、香ばしさを加える
いよいよオーブンへ。高温の熱を加えることで、以下の劇的な変化が起こります。
- オーブンキック(釜伸び): 最初の5分〜10分で、生地内のガスが熱膨張し、イーストが最後の力を振り絞って、パンが一気に膨らみます。
- 骨格の固定: デンプンが糊化(こか)し、タンパク質が熱変性して固まり、パンの形が固定されます。
- メイラード反応: 表面の糖とアミノ酸が反応して、食欲をそそる焼き色と香ばしい香りが生まれます。
【参考】パンの種類による温度と時間の目安
焼成温度は、「砂糖の量(焦げやすさ)」と「大きさ(火の通りやすさ)」、そして型の有無で決まります。
- 菓子パン・ロールパン(砂糖が多い・小さい):【210℃ / 10〜12分】
- 理由: 砂糖や卵が入ったリッチな生地は、非常に焦げやすい(メイラード反応が起きやすい)です。短時間で焼き上げることで、パサつきを防ぎ、ふんわりとした食感に仕上げます。
- 食パン(砂糖が入る・大きい):
- 山食パン(蓋なし):【180℃ / 35分】
- 蓋がなく直接熱が当たるため、焦げないように少し低めでじっくり焼きます。
- 角食パン(蓋あり):【200℃〜210℃ / 35分】
- 蓋があるため熱が伝わりにくいです。
- ※プロのポイント: 家庭用オーブンでは「下火」の設定ができないことが多いため、全体温度を高めの200〜210℃に設定することをおすすめします。(もし業務用の下火設定ができるオーブンの場合は、220〜230℃が理想です)
- 理由: 生地の塊が大きいので、中心まで火を通すのに時間がかかります。焦がさない程度の温度でじっくり焼きます。
- 山食パン(蓋なし):【180℃ / 35分】
- フランスパン・ハード系(砂糖なし・高温勝負):【250℃ / 20〜25分】
- 理由: 砂糖が入っていないため、簡単には焼き色がつきません。また、低い温度だと皮が分厚くガリガリになってしまいます。高温で一気に焼き上げることで、薄くてパリッとした皮(クラスト)を作ります。
⚠️ プロからの重要アドバイス: 家庭用オーブンは扉を開けた瞬間に庫内の温度が急激に(20℃〜30℃くらい)下がります。 そのため、目標温度より予熱を20℃〜30℃高く設定しておくのが、失敗しないコツです! (例:200℃で焼きたいなら、230℃で予熱する)
まとめ:理論を知れば、失敗は怖くない!

いかがでしたか? なんとなくやっていた一つ一つの作業に、深い科学的な意味があることがお分かりいただけたでしょうか。
「なぜ今、この作業をしているのか?」を理解していれば、もし失敗しても「あ、あの工程が足りなかったのかな?」と自分で原因を見つけられるようになります。
この基礎工程のロードマップを頭に入れて、これからのパン作りをより深く楽しんでくださいね!


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